News/Blog空の湯の過ごし方<第2話>仕事の後にひとっ風呂

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空の湯の過ごし方<第2話>仕事の後にひとっ風呂

 最後のハワイ行の出発機が飛び立つと空港は静かになり、お客様と入れ替わるようにいろんな色の作業着を着た人たちがどこからともなく集まってくる。お客様がいる時にはできないメンテナンスが始まるのだ。芝子の仕事は日常清掃、トイレやラウンジの巡回清掃だ。この時間になると芝子の仕事も終わりを迎える。定期清掃や特別清掃の夜間チームと交代するのだ。芝子は空港の隣町であるTコ町で生まれ、Tコ高校を卒業して空港の清掃をする今の会社に入社した。派手な仕事ではないが無くてはならない仕事。縁の下の力持ちって奴で、自分の性格にあっていると思ったからだ。隣のおばあちゃんがこの会社で長く努めていたのも大きな理由である。50年前、会社が創業した当時はこの地区だけで5人も働いていたそうだが、今は芝子一人だけになってしまった。
「さっきのお客様、無事に空の湯に行けたかしら?」
到着エリアのトイレ点検が終わって控室に移動中に声を掛けられたお客様だ。あの時言ったように芝子は空の湯が出来てからというもの週に2度は通っている。
通う理由は様々で温泉に入るだけではない。
岩盤浴には女性専用のエリアも用意されていてリラックスできるし、ホットヨガルームは温度こそ40度だが湿度が60%を維持していて温度以上に温かく感じる。気管支が弱い芝子にとってこの南国のような空気の中にいることはととも快適なのだ。
お給料後はちょっとリッチにエステに行ったりタイ古式マッサージを受けたりもした。
肝心のお風呂は3階にあり、露天が温泉になっている。
源泉かけ流しの湯船は一番左側、ランウェイ34Rに着陸するジェット機がよく見える一番のお気に入りのスポットだ。泉質は強塩泉、地球の磁場が逆転していたチバニアン(77万年~12万8千年前)より古い時代の前期更新世の堆積物に閉じ込められたもので、海水よりも塩分が強い。そのため温泉成分が身体に染み込みやすく、いつまでもポカポカしている。ヨード分が多いのも千葉の温泉の特徴であるがこの温泉は特に多いらしい。汲み上げ時の温度が30度と低いのは火山性の温泉でないのでいたし方ないが、それを薄めずに贅沢に掛け流している。加温以外は何もしておらず、塩素も加えていない。それもその筈、成分的には飲めるのだが敢えて管理上の都合により飲適申請していない。「この水は飲めません」のサインが恨めしい。
 掛け流し湯の隣は温泉を循環ろ過している浴槽であり、塩素消毒もしているし加水もしている。一般の温泉というと大抵この類だが、掛け流しが強すぎると感じる時はサラサラで丁度いい。
露天には他にもジェットバスと寝湯、つぼ湯があるが、これらは白湯である。
内湯は20の洗い場に強炭酸泉と人工温泉、ドライサウナとハーブサウナがありサウナ好きにはたまらない。
強炭酸泉は最近人気のお風呂だ。家庭用としての温泉の素はいろいろあるが、濃度はこれらの比ではなく軽く1,000ppmを超えている。炭酸ガスの作用で血管が広がり血流が良くなる事によって心臓の負担軽減と血圧降下などの効果がある他、新陳代謝が促進され老廃物を効率よく排出されると言われており、西洋では「美容と健康の湯」として親しまれているようだ。人肌程度の温度だが炭酸濃度を高くするには水温は低くなくてはならない。この温度は不感温度と言って長時間の入浴ができる。他の温泉では何時間も入っている名物おばあちゃんがいるらしいが、適度に出入りして水分補給した方が体にいいに決まっている。空の湯には外国人も多く訪れるが、熱いお湯が苦手の外国人にも好評のようだ。
サウナは女性風呂にだけハーブサウナがついていてもなんだか得した気分を味わえる。
温泉とサウナでガッツリ汗を掻いたら水風呂に直行。この水風呂は飲み水の地下水をそのまま贅沢に掛け流していて何も手を加えていない。
地下水の水温は1年中15、6度、火照った体を一気に引き締めてくれる。水風呂に入ることによって毛穴を縮め無駄な発汗を抑え、いつまでも体の芯からホカホカが続くのだ。
 空の湯の事を考えていたら温泉に行きたくなってしまったが、時刻はすでに23時を過ぎている。空の湯では24時を過ぎると深夜料金として1500円追加されるので、遅番のときは行けないのだった。
芝子は空の湯に併設しているエニタイムフィットネスにも入会しているので、24時間365日、いつでも利用できるのだった。仕事の日は2万歩近く歩く芝子は根っからのスポーツ好き。高校時代、テニス部で鍛えていた時と比べても全く同じスタイルを維持しているのだ。
「今日は空の湯で汗を流すのは諦めて、ランニングマシンで汗を流して帰ろうかしら。」翌日が非番の芝子は終礼が終わり、タイムカードに打刻するといそいそと空の湯に向かっていった。